「日本の安全神話」

会報担当理事 久保田 正幸

 

 国内外の冷ややかな視線をあびて発足した小渕内閣であるが、マーケットの反応も極めて冷淡 なもので、当分円安、株安、債権安のトリプル安はとまりそうにもない。ここ数週間の内に実行 性のある経済政策がうちだせるか否かに小渕内閣の命運も国の命運もかかっているといってもよ い。事は経済問題ばかりではなく、問題山積の状態である。かねてからの懸案であるNew Defense Guide Lineをどうまとめていくのか正念場にきている。戦後50年休制が崩壊し、冷戦後の新しい 枠組が揺らぐ中、日本のSovereigntyIndependencyを最重要課題として是非取りくんで欲しいものである。

 日本の安全神話は崩壊したといわれて久しくなるが、どうも気になる報道が幾つかある。環境 汚染と社会秩序の崩壊である。DioxinHormone Disrupter等の環境汚染問題は年々増加の一 方である。私達医療関係者にとって0157感染症の問題は深刻な悩みである。その散発例の数と日本各地でみられることから考えてみても、かなりの数の保菌者が いるのではないかと思う。又事ことに至ってはもはや0157感染症に羅患する可能性は極めて高いといわざるをえない。水道水の汚染も深刻で、各家庭あたりの浄水器設置率は50%をこえると聞く。産廃やゴミ焼却問題でも国の施策が国民の健康よりも優先されている行政には唖然とする他ない。この問もJapan Timesで報道されていたが、国内産廃業者はとうとうRecyclingという名目で東南アジア各地に古タイヤや産廃を輸出し始めたという記事に愕然とした。しかし政府はその事実を知りながらあくまでもRecyclingが目的である以上行政指導はできないという。実体は国内での処理に困ったゴミを経費が安く住民反対運動のでない開発途上国へおしつけようという以外の何物でもない。 本当にこの国は恥という文化を置き忘れてしまったのだろうか。自国をゴミだらけにして未だ飽 き足らず、他国にもゴミをまき散らすのかと怒りを禁じ得ない。

 オウムによるサリン散布事件も然りながら、昨今の毒物混入事件にも異常性を感じる。医療を 担当する側からみると、この国のRisk Managementの弱さは目をおおいたくなるばかりである。もう20年前のことであるが、私自身県北の病院で服毒自殺目的のパラコート中毒患者を診療したことがある。毒物の臓器移行性は初期治療が最も重要である。その患者は服毒後約48時間たって病院に母親に付きそわれてやってきた。農薬を飲んだということはわかっているが、有機リン系の農薬なのかパラコートなのかわからない。私も全く知識がない。既に肝障害、腎障害が著しく、血漿交換と血液透析で二つの臓器障害はきりぬけたが、肺腺維症による呼吸障害で不幸な転帰となってしまった。この症例の場合は服毒後時間がたっているので、毒物の臓器移行が完成してしまっていた。おまけに担当する医師の側にも毒物に対しての知識が欠如しているし、解毒剤も手許にない。たとえあったとしても使ったことがない。オウムのサリン散布の経験は何も生かされてはいない。毒物の特定までに時間がかかりすぎる。これでは必要な初期治療は何もできないというに等しい。たとえ速やかに胃洗浄を行なったとしても確実に毒物は血液の中に混入してくる。おまけに救急医療の現場でもNetworkは確立されていない。右往左往している内にどんどん時間だけたっていく。こうした今まで異常で稀であった症例にも積極的に取り組んでいく必要があるのではないかと考えさせられてしまった。

 なによりも私達一人一人がこうしたRisk Managementをどうするのかと考えねばならぬ時期がきてしまったようである。最早どこにも欧米なみに安全は保障されていないという自覚にたつことがまず第一歩かもしれない。


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