会員の先生方も経験されていると思うが、 ある大人の患者さんが初診で来院し、 「どうされましたか?」と何気なく尋ねると、 開口一番 「風邪です」 と言う病名の返事をされる事がたまにある。 本当にいわゆる風邪かどうか、 また風邪であればどんなタイプでどの程度なのか等は診察してみないと分からないはずなのに、 いきなり患者さんの方から病名だけを告げられると、 医者としてのプライドが少し傷つけられたような気持になる。 そんな患者さんには、 最初の返事は聞き流して、改めて 「どんな症状があるのですか?」 と聞き直す事にしている。 すると初めて、 のどが痛い、鼻水や咳が出る、 熱がある等の症状を訴えられる。
のどの痛みなどを訴えられた時には、 必ずその箇所を実際に患者さんの指先で押さえて頂く。一口に 「のど」 と言われても、 我々耳鼻咽喉科開業医が扱う領域は、 鼻腔後方の上咽頭 (鼻咽腔) から気管上部や食道入口部に至る上下に長い部位で、 まず患者さんが指さす箇所を参考にして診察を進めていく事にしている。 一般に、 患者さんが指さす箇所は大体、 実際の病変部よりは少し下方の事が多いとされている。 また、 のどの中央部を指さす場合は、 喉頭、 両側あるいは片側に偏っている場合は咽頭の病変が考えられる。
我々がよく使用する簡便な診療用器具の一つに、 間接喉頭鏡がある。 細長い柄の先に小さな鏡の付いた器具で、 これを用いた喉頭鏡検査は、 保険点数が現在わずか11点と言う安価な検査法である。 フレンケル下圧子などで舌を押さえながら中咽頭付近をくまなく診察して異常がなくても、この間接喉頭鏡を用いた喉頭およびその周辺部の視診で、 初めて発見できる病変も多い。 かぜ症候群の患者さんによく認められる所見は、 声門下に見える気管上部のかなり高度の発赤である。また、 喉頭粘膜のみが全体に発赤している事もある。 その他、 急に悪化して窒息死する危険性もある喉頭蓋炎や喉頭浮腫をはじめ、 嗄声の症状がある声帯付近の異常所見、 下咽頭の舌根扁桃腺炎などは、 少し経験を積んだ耳鼻咽喉科であれば、 間接喉頭鏡検査で大抵の場合は簡単に診断できる。 しかし、 聞き分けのない乳幼児や咽頭反射が極度に強い患者さんの場合には、 キシロカイン液などで表面麻酔までしても、 この検査が出来ない事がある。 そんな場合には、 患者さんにとって少し負担になるが、 喉頭ファイバースコピーを施行する事になる。
鼻漏の訴えがある場合は、 まず水様性か粘液性または膿性かを問診し、 続いて鼻腔内の視診や必要があれば鼻・副鼻腔のレントゲン撮影、 鼻汁細胞診、 アレルギー検査などを行う。 それによって、 寒冷刺激やウイルス感染やアレルギーなどによる単なる鼻炎なのか、 細菌感染などによる副鼻腔炎も合併しているのかを鑑別し、 処置と投薬の方針を決定している。 よく遭遇する症例として、 鼻漏が初期の水様性の間はともかく、 粘膿性鼻漏や後鼻漏に変化していても、抗ヒスタミン作用のある総合感冒薬などをずっと服用し続けている場合がある。 その結果、 かなり高度の副鼻腔炎に移行していて、 単なる投薬や鼻処置およびネブライザー療法だけでは治癒が期待できなくなっている事も多い。 そんな症例には、 抗ヒスタミン作用のある薬を他の消炎酵素剤や粘液調整剤などの薬に変えたり、 副鼻腔薬液注入療法や上顎洞穿刺・洗浄療法を行ったりして加療している。 中耳炎に罹患しやすい乳幼児で鼻漏が多い場合には、 耳の訴えがなくても、 必ず詳細な耳鏡検査も行って鼓膜所見を厳重にチェックしている。 そして、 中耳炎の予防のためにも、鼻処置を可能な限り充分に行っている。
いわゆる風邪の初期で、 鼻の奥がイガイガするとか痛がゆいと訴える患者さんもいる。 そんな場合は、 上咽頭に限局した炎症を起こしている事が多い。 鼻鏡や後鼻鏡または鼻咽腔ファイバースコープで確認できる。 幼児の患者で、 両側の口蓋扁桃をはじめとする中咽頭には著変がなくても、 上咽頭のアデノイドにのみ化膿性炎症を起こしている症例もたまにある。 主訴は原因不明の発熱で、 家族によく問診してみると鼻閉やいびき等の症状がある。 そんな場合、 注意して上咽頭を観察してみると、 発赤腫脹したり白苔の付着したアデノイドが確認できる事がある。
詳細な鼻咽喉部の視診を行っても、 大した異常所見を認めない症例もある。 その割に頑固な咳や痰、 喘鳴、 発熱や全身倦怠感などの症状があれば、 勿論、 下気道疾患を考えて内科や小児科への受診を勧めさせて頂いている。 その他の症状に合わせて、 アレルギー性咽喉炎、 咽喉頭異常感症、神経痛なども考慮に入れている。
以上、 いわゆる風邪の症状を訴えて来院した患者さんに、 耳鼻咽喉科専門医がどの様に対処しているかについて、 私見も交えて述べさせて頂いた。 皆様の診療に少しでも参考になれば幸いである。