結核・ツ反・BCGQ&A



1 油断できない結核
 結核は決して「過去の病気」などではありません。1996年現在でもわが国では約3千名が結核で亡くなり,新たに結核として登録される人が年間4万人を超え,人口10万人当たりの新患者発生数34人は,欧米の先進諸国の数倍に上がっております。結核の集団発生も後を絶ちませんし,最近では薬の効かない多剤耐性結核菌が問題になっています。
 結核の予防のために,結核菌で自然感染する前にBCGワクチンを接種します。特に,抵抗力の弱い乳幼児がかかりやすく,予後がよくない結核性髄膜炎や粟粒結横などの重い結核に対しては,BCGはきわめて有効です。結核に対する抵抗力は母体からもらうことができないので,生後間もない赤ちゃんでも,結核にかかる心配があります。BCGをできるだけ早い時期(0才のうちに)に接種することがすすめられます。

2 BCGワクチンについて
BCGワクチンは,パスツール研究所(フランス)のカルメットとゲランによって開発されたものです。ウシ型結核菌を13年間230代継代培養したことにより弱毒化に成功しました。わが国へは,1924年パスツール研究所から分与され,1938年に日本学術振興会に小委員会が結成されて研究が進められ,BCGの効果が確認されました。現在では,結核予防法に基づいて,全国的に予防接種が実施されております。
 接種方法は,初めの皮下接種から局所反応軽減のために皮内接種になり,さらに1968年からはより軽い局所反応ですみ皮内法と同等の接種効果がある経皮接種(管針法)になりました。
 また,当初の液体ワクチンから,1950年以降は長期保存可能(現在は2年)な乾燥ワクチンにかわっています。そして,1965年には日本株(Tokyo172strain)からつくられた乾燥BCGワクチンがWHOの国際標準品に指定されました。

3 ワクチン接種の実際
1)接種の時期
 定期接種としては,@4歳に達するまで,A小学校1年生,B中学校1年生,それぞれのツベルクリン反応陰性者に接種します。ただし,乳幼児の初回接種の際は,初めてのツ反が30mm未満の陽性の場合は,ツ反を再検査し陰性であったら,BCGを接種します。 
 また,A,BでBCGを接種した場合は,翌年(2年生)ツ反をし,陰性ならBCGを接種します。

2)接種の方法
9本の針が植え付けられている「管針」を用いて経皮接種します。BCGワクチンを溶剤(日局生理食塩液)で懸濁(とか)し,懸濁液をスポイトで接種部位の皮膚に滴下し,管針のツバで塗り広げ,管針で強く2回(2カ所)押して,接種します。

3)接種不適当者
 BCGワクチンを接種する際には,事前に必ずツベルクリン反応検査をして,ツベルクリン反応陰性者に対してのみ接種いたします。
 ツベルクリン反応検査は次に掲げる人に対して行いません。@明らかな発熱を呈している者,A重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者,Bまん延性の皮膚病にかかっている者,Cツベルクリン反応検査においてツベルクリン反応が水ほう,壊死等の強い反応を示したことのある者。D副腎皮質ホルモン剤を使用している者。また,麻しんや風しんなどにかかった後や,麻しんワクチン接種後1カ月間は,ツベルクリン反応が減弱または陰性化することがあるので注意を要します。
 BCG接種は,上記@,Aのほか,B結核その他の疾病の予防接種,外傷等によるケロイドの認められる者、Cその他,医師が予防接種を行うことが不適当と認めた者に対しては行いません。また,免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者,エイズ感染者にも,BCGを接種しません。

4)接種部位の変化
 接種後1ヶ月以内に針痕に相当し発赤,硬結,次いで腹痛,痂皮を生じますが,いずれも通常の局所の経過であって,2〜3ヶ月で小さな瘢痕になります。まれに腋窩リンパ節に軽度の腫脹を起こすこともありますが,通常は2〜3ヶ月で自然に消退します。

5)取り扱い上の注意
(1)アンプル内のBCGワクチンの乾燥状態を確認し,吸湿してアンプル内壁に固着しているものは使用しないで下さい。
(2)溶剤を一度に注入すると,ワクチンが懸濁せずに残って不均等になることがありますので,初めに約半分を入れワクチンを湿らせてから,残量を加えます。
(3)懸濁したワクチンは,光や熱に影響を受け死滅しやすいので注意が必要です。一度懸濁したら使い切ってください。
(4)集団壊種用の管針,煮沸消奉または高圧蒸気滅菌をして下さい。乾燥滅菌は絶対にしないで下さい。
(5)管針は被接種者ごとにかえなければなりません。

Q1 BCGワクチンの有効性について教えて下さい 

 ツベルクリン反応陰性の幼児に管針法でBCGワクチンを添付文書どおり強く接種し,1年後にツベルクリン反応をみますと,80%以上の陽性率が得られます。
 また,接種効果の持続期間については,正しい接種がなされた場合,発病予防効果は10年以上続くといわれています。
  戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,23.1991
  森 亨:ワクチン再前線,237,1989
  中島丈夫・吉日直之:日本医事新報、3360,136,1988 

     Q2 BCGを接種してからどのくらいの期間が過ぎれば、効力が出て来るのでしょうか

  BCGを正確に接種した後1カ月目にはツベルクリン反応が陽性に出ます。つまり,1カ月後には十分免疫ができているといえます。動物実験の結果では,接種後2〜3週間で免疫ができてくることが確認されています。
   戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,80.1991

Q3  BCGの効果は,どのくらいの期間続くのでしょうか。乳幼児期に1回接種しただけで、小学校1年生まで接種の機会がなくても大丈夫でしょうか。

 Qlにもあるように,発病予防効果は10年以上続くので,乳幼児期に正確にBCG接種を行えば,小学生まで接種の機会がなくても十分です。ただし,家族に結核患者が出たような場合は,家族検診を受け,ツベルクリン反応検査をし,必要ならばBCG接種をするという,個別的な対応をしなければなりません。
  戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,80.1991
  森 亨:ワクチン最前線,237.1989
  中島丈夫・吉田直之:日本医事新報,3360,136,1988

Q4  BCG接種部位に針痕がみられない場合,接種効果はありますか。また針痕はいくつくらいあればよいでしょうか。

 接種した後の局所の変化からも一応の接種効果が推定できます。初回接種で10〜12個以上の針痕があれば,ツベルクリン反応は陽性を示すでしょう。
 針痕がない場合は,できれば3カ月後にツベルクリン反応検査をし,結果が陰性ならば再接種することが望ましいです。
  森 亨:ワクチン最前線,246,1989

Q5  乳幼児期にBCG接種をしているのに,小学校1年生でツベルクリン反応検査をしますと、約半数が陰性になっているのはどうしてでしょうか。

  一つには,乳幼児期のBCG接種が正確に行われなかったことが考えられます。添付文書どおりにBCG懸濁液を正しくつくらなかった,懸濁液を直射日光に曝露してしまった,接種部位の消毒用のアルコールが乾かないうちに懸濁液を滴下してしまった,管針の押し方が弱すぎた,管針で2回押すべきところを1回しか押さなかった,接種後に液が乾かないうちに衣服を着てしまった,などの理由によるものです。
 BCG接種後のツベルクリン反応陽性の持続期間についてはかなり個人差が大きく,長い場合には10年以上も強陽性が続き,短い場合は2〜3年で陰性になってしまうこともあります。しかし,後者の場合でも,BCGの効果は弱くなっても完全になくなってしまっていないと考えられています。
  戸井田一郎:ツベルクリンの話,80,1991
  徳地溝六:BCG接種−その理論と実際,36,1987
  中島丈夫・青田直之:日本医事新報.3360,136,1988

Q6  ツベルクリン反応の「ブースター効果(追加免疫効果)」とはどういうことでしょうか。

A  BCG接種を受けてから何年か経つと,BCG漢種のすぐ後と比べて,ツベルクリン反応が徐々に弱まってくるのが普通です。このようなときにツベルクリン反応検査を行うと,このときに使う精製ツベルクリン(PPD)が免疫に関与している細胞を刺激して,その後もう一度ツベルクリン反応検査をすると、弱くなったツベルクリン反応が盛り返して,やや強い反応が出るようになります。これを、ツベルクリン反応の「ブースター効果」といいます。
戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,80.1991

   Q7  ツベルクリン反応検査にも禁忌事項があるようですが,それはどのようなものでしょうか。

                     A  ツベルクリン反応検査を実施するとひどい副反応があるから実施してはいけないという「絶対的な禁忌」はありません。熱がある人に検査を実施しても有害ではありません。湿疹のある場合は,湿疹の部位を避ければできます。
 ただ,正しい結果が得られないおそれがあり検査をする意味が疑問であったり,結果の解釈に慎重を要するというような,「相対的な禁忌」はあります。
 主なものは、ウイルス性疾患に罹っているときやその治癒直後,ウイルス生ワクチンの接種後1カ月くらいの間、副腎皮質ホルモン剤使用中(軟膏の局所的な塗布を除く)などです。これらの場合は,ツベルクリン反応は正しい値より弱く出たり,陰性になったりします。その他特別な場合として,血液透析中,免疫抑制剤や抗癌剤使用中・照射療法中,サルコイドーシス、リンパ腫,AIDSなどでもツベルクリン反応は弱くしか出ません。
また、何回やってもツベルクリン反応が強く出ることが確実な人には,いまさら検査をする必要はありませんし、過去に水ほう・壊死等の非常に強い反応を示した人に対してはツベルクリン反応検査をしません。
     戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,95,1991
     森 亨:ツベルクリン反応,64,1989

Q8   BCG接種後の潰瘍の手当は、どうすればよいでしょうか。

  接種後1カ月くらい経ちますと,管針の針痕に相当するところ一つ一つ宇が小さな独立した膿になったり、かさぶたをつくったりしますが,これらは正常な反応であって,特別な処置は必要ありません。局所をいじったり引っ掻いたり、かさぶたをはがしたりしないように被接種者に注意し,局所を清潔に保っていれば十分です。
 一つ一つの膿疱が融合して全体に大きい膿疱になったり,局所を引っ掻いて他の細菌の混合感染を起こしたりした場合は、1%リファンピシン軟膏を局所に塗布したり抗生物質入り軟膏で混合感染を治療することもありますが,このような場合はごく少数です。
     森 手:ワクチン最前線、245、1989

Q9  BCG接種後、腋窩リンパ節の腫脹がみられたときは,どう対処したらよいでしょうか。

               A  3カ月児にBCG接種を行い,1〜2カ月後に触診するとリンパ節の腫脹が認められることがありますが、その頻度は0.3〜0.6%といわれています。大きいもので2cm程度までで,次第に縮小し,自然に治癒します。この程度のリンパ節腫脹はBCG接種後の正常反応の範囲内のもので,異常な反応と考えなくてよいでしょう。
 リンパ節の大きさは時とともに変化し,またきわめてまれに瘻孔(組織が欠損して管状の穴ができること)を形成した例がありますので,経過観察は必要です。リンパ節が化膿して波動を触れるか,皮膚との癒着,瘻孔の形成,あるいは3cmを越えるほど大きくなれば,1%リファンピシン軟膏を局所に塗布するか,あるいはイソニアジド(INH)投与などの治療が必要になりますが,原則として外科手術は必要ありません。
  日本結核病学会予防委員会:結核,62,361,1987
  森 亨他:日本医事新報,3288.45.1987

Q10  第1回日のBCGワクチンの接種は何歳までに行えばよいでしょうか  

   法律では,遅くとも4歳までに1度,BCG接種のためのツベルクリン反応を行うことになっています。しかし,乳幼児がかかりやすく,かかると予後が悪い結核性髄膜炎や粟粒結構などの重い結核を防ぐためには,生後3カ月以後なるべく早い時期(満1歳まで)に実施する必要があります。
 4歳をすぎると公費負担は受けられませんが,幼児が社会生活に入る前に接種をすませておくという観点から,4歳をすぎた場合でもできるだけ早い時期にBCG接種をしておいた方がよいでしょう。
   森 亨:小児科,37,1141,1996
   横田清司:小児科臨床、49、651、1996

Q11  副腎皮質ホルモン剤を使っていますが.BCGワクチンの接種を行ってもよいでしょうか


                       A 
  副腎皮質ホルモン剤の使用中(軟膏の局所的な塗布を除く)は,からだの免疫をつくる能力が弱まっていることがありますので,これらの薬剤を使っているときには接種を避けてください。また,長期間使用したときには薬剤の中止後1〜2カ月経ってから接種することが望ましく,薬剤使用が短期間であれば中止後間もなく接種してもさしつかえありません。
 なお,ツベルクリン反応については,反応が弱くなって陽性者が陰性とでることがありますので,これらの薬剤の使用中は行わないでください。
   木村三生夫他:予防接種の手びき 第7版,42,1997
   早川 浩:日本医事新報.3664,142,1994

Q12  4歳末満の乳幼児の陽性(29mm以下)例に対する再度のツベルクリン反応検査が行われておりますが,初回検査での陽性者が,再度のツベルクリン反応では陰性になった場合 これを真の陰性者として扱ってよいでしょうか

A   もし,真の陽性者であるならば再度のツベルクリン反応でも陽性となると思われ,1回目の陽性の反応は,偽の反応と考えられます。したがって,再度のツベルクリン反応で陰性となった人は免疫をもたない人とみなしBCG接種を行う必要があります。
 なお,このような偽の陽性が生じる理由として,手技判定の不慣れ(皮下出血斑や針刺激痕の誤読),非特異性反応の一過性の出現などが考えられますが,まだ確かなことはわかっていません。
   森  亨:ツベルクリン反応検査,87.1995
   戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,59、1991

                             Q13  4歳末満の再度のツベルクリン反応は−初回のツベルクリン反応判読後2カ月以内に行うことが望ましいのはなぜでしょうか。 


        A
   もし、初回ツベルクリン反応陽性者が真の陽性者であった場合には,必要に応じ,レントゲン検査,予防内服・さらには接触に対する定期外検参などを速やかに開始しなければなりませんので,遅くとも2カ月以内には再度のツベルクリン反応検査を行う必要があるわけです。できれば、少なくとも初回のツベルクリン反応判読後1カ月以内には再検査ができるような検診のスケジュールを組むようにしてください。
  戸井田一郎:ツベルクリンのはなし,54,1991

Q14  BCG接種歴がなくツベルクリン反応が自然陽転したのですが,どのような生活指導をすればよいでしょうか。

                A   患者との接触歴,ツベルクリン反応の大きさから結核感染が強く疑われる場合にはイソニアジド(INH)による化学予防を優先に考えるべきで,日常生活の規制,例えば水泳の禁止などのみを指示するのは望ましくありません。
INH服用中でも,日常生活や学枚生活はさしつかえないでしょう。ただし,特別の激しい運動や長時間の日光浴、例えば、運動部などの合宿訓練などは避けます。正規の授業で行うプールでの水泳などは許可してもよいでしょう。
  日本結核病学会予防委員会:結核,61,55,1986


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